副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)検査の目的
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の測定は、視床下部や下垂体、副腎皮質機能の異常が疑われる場合のスクリーニングとして行われます。コルチゾールと合わせて副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の検査を行う事でより詳細な情報を得る事が出来ます。副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)は、下垂体前葉でα-メラニン細胞刺激ホルモン(α-MSH)、脂肪代謝に関連するβ-リポトロピン、脳内ホルモンの一つと言われているβ-エンドルフィン等と共通の前駆体です。視床下部からの副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)放出因子やストレスによって促進され、副腎から分泌されるグルココルチコイドの分泌によるネガティブフィードバックにより分泌が抑制されます。検査の意義は、視床下部、下垂体、副腎皮質の異常の有無と程度を知る上で重要な検査です。
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)基準値
生化学血液検査項目 | 基準値(参考値) | |||
生化学血液検査名称 | 略称 | 数値 | 単位 | |
副腎皮質刺激ホルモン | ACTH | 7.2~63.3 | pg/ml |
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の検査は、時間帯によって血液検査結果が変動するため、早朝空腹時に安静にした状態で血液を採取します。起床直後から午前中にかけて副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)は分泌量が増加し、午後になると減少するに血内変動が見られます。また、ストレスを受けると副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の数値は上昇します。副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の測定は通常、コルチゾールの測定と併せて行われます。
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)検査結果からわかる病気
副腎皮質刺激ホルモン | 考えられる原因と疾患の名称 |
基準値より高値 | 下垂体腫瘍(ACTH産生下垂体腺腫) 異所性ACTH・CRH産生腫瘍 アジソン病 先天性副腎皮質過形成 ネルソン症候群 クッシング症候群 神経性食欲不振症 アルコール多飲 うつ病 ストレス |
基準値より低値 | シモンズ病、ステロイドホルモン大量長期投与後、シーハン病、クッシング症候群(副腎腺腫などによる)下垂体機能低下症ACTH単独欠損症視床下部障害(脳腫瘍など) |
【備考】 副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の測定は一般的に、コルチゾールの測定と併せて行われます。 【関連項目】副腎皮質刺激ホルモン、コルチゾール、レニン活性、アルドステロン、甲状腺刺激ホルモン、甲状腺ホルモンFT3、甲状腺ホルモンFT4、副甲状腺ホルモン、黄体形成ホルモン、卵包刺激ホルモン、インスリン |
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の病気
検査結果の判定は副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が高値で、併せて測定したコルチゾールも高値を示す場合は、下垂体性のクッシング症候群が、逆にコルチゾールが低値を示す場合は、アジソン病(全身倦怠感、吐き気、下痢、低血糖などの症状が現れる)が疑われます。また、慢性的に副腎が障害されていると、副腎皮質ホルモンの分泌が減少して、それを回復させるために副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が高値となることがあります。一方、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が低値を示し、コルチゾールが高値の場合は、副腎腫瘍によるクッシング症候群が疑われます。また、下垂体の機能低下や、副腎皮質ホルモン薬(ステロイド)の大量服用などでも低値となります。
副腎皮質刺激ホルモン不応症(指定難病237)
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)不応症は、家族性アジソン病から独立した疾患単位であり、先天性の要因により、グルココルチコイドであるコルチゾール、及び副腎アンドロゲンであるデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)とその硫酸塩であるデヒドロエピアンドロステロンサルフェート(DHEA-S)の分泌が生体の必要量以下に慢性的に低下するが、ミネラルコルチコイドであるアルドステロンの分泌は保たれている状態である。副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)不応症は、無涙症、アカラシアを合併することがあり、Triple A症候群候群)と呼ばれる。
クッシング病
下垂体前葉に生じた副腎皮質刺激ホルモン産生腫瘍によっておこる。副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)自律分泌能はそれほど高くはないので、MSHの作用は問題にならず、臨床症状は主に下流の糖質コルチコイドの過剰による。クッシング症候群のうち、異所性副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)産生腫瘍によるもの下垂体以外に生じた腫瘍(通常癌)が副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)を過剰に産生する場合に起こる。原因は肺小細胞癌などで、クッシング病と比較するとかなり多量の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が産生され、下流の糖質コルチコイド分泌量も多く、臨床像も強い。クッシング病とは異なり、過剰の副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)に伴うかなり多量のMSHも問題となり、皮膚に色素沈着が起こる。
汎下垂体機能低下症
下垂体の全てのホルモンの分泌が低下している病気。この病気にかかった患者の臨床像をひとことで言うならば、「元気がない」。副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、甲状腺刺激ホルモン、プロラクチンの低下を反映した症状を示す。成人に起こる場合、成長ホルモンの分泌低下を示す明らかな症状はない。原因は、頭蓋咽頭腫による下垂体の圧迫や、結核、サルコイドーシス、シーハン症候群、転移性悪性腫瘍などがあります。
副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)単独欠損症
下垂体ホルモンのうち副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)だけの分泌が低下する病気。副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)が低下することで、下流の糖質コルチコイドの分泌も低下する。生理学的には副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)低下によるネガティブフィードバックで副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)が過剰分泌されることによりプロラクチン分泌が上昇し甲状腺刺激ホルモン分泌が低下するはずであるが、そのような症状を呈する患者の報告もある。下流の糖質コルチコイドの産生そのものが低下している病気である原発性副腎皮質機能低下症とは少し臨床像が異なっていて、色素沈着がおきないほか(副腎不全では、下流の産生低下に対するネガティブフィードバック欠如を反映した上流のACTH過剰産生に伴いMSHが過剰産生されている)、通常の状態では自覚症状はない場合が多い。ストレス状態に置かれると、それに反応した副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)分泌を行うことができない点が主要な病態であって、普段通常に暮らしている人が、普通の風邪にかかって突然生命の危険に陥る(急性副腎不全を発症する)という臨床的特徴がある。原因は明らかではないが、自己免疫疾患ではないかといわれている。抗下垂体抗体が関連があるとされているが保険適用はない。