インスリン(IRI)の基準値
生化学血液検査項目 | 基準値(参考値) | |||
生化学血液検査名称 | 略称 | 数値 | 単位 | |
インスリン | IRI | 1.7~10.4 (空腹時負荷前) |
μU/ml |
インスリン(IRI)検査の目的
インスリン(IRI)の測定は、膵β細胞機能を診断する検査として重要な検査です。特に、糖代謝異常を伴う疾患、代表的な疾患として糖尿病や低血糖がありそれらの診断、識別、病態の解明などに用いられます。
インスリン(IRI)検査では何を調べているのか
インスリンは、膵ランゲルハンス氏島β細胞において前駆体プロインスリンを経て生成されるペプチドホルモンで、糖代謝ならびにアミノ酸、脂質代謝などに関与している。インスリンの代表的な生理作用は血糖降下であり、膵からの分泌も血中グルコース(血糖)濃度の支配を受けている。すなわち、血糖値上昇による促進、低下によりコントロールされる。糖尿病はβ細胞の減少や機能低下に基づくインスリンの分泌不足や、末梢組織でのインスリン作用不足によりもたらされる。血中インスリン濃度はβ細胞のインスリン分泌機能を反映し、糖尿病の診断・病態把握、耐糖能異常の原因鑑別に有用な指標である。肥満や種々の内分泌疾患に伴う耐糖能障害でもインスリンは異常値をとる。またインスリン産生腫瘍であるインスリノーマでは、インスリンが過剰に分泌されるため低血糖がみられる。なお、インスリンの免疫学的定量においてはプロインスリンやインスリン生合成系の中間産物にも一部交差反応があり、得られる測定値は厳密にインスリンのみを表すものではないことから、この測定値を特にimmunoreactive insulin(IRI)という。
インスリン(IRI)の検査結果からわかる病気
検査結果 | 考えられる原因と疾患の名称 |
基準値より高値 | インスリノーマ、肥満、肝疾患、Cushing症候群、末端肥大症、異常インスリン血症、インスリン受容体異常症、インスリン自己免疫症候群 |
基準値より低値 | 糖尿病(Ⅰ型および他の型の重症例)、低栄養状態、原発性アルドステロン症、低血糖症(膵外腫瘍、下垂体・副腎不全)、膵癌 |
【備考】 HOMA 指数 = インスリン0分値×血糖0分値 / 405 空腹時血糖、ヘモグロビンA1 c、インスリン、C-ペプチド |
血糖調節メカニズム
インスリンの血糖降下作用は三つの経路
生命の維持に必要なブドウ糖は、ホルモンの分泌により適正範囲を維持している。これは血糖値を下げるインスリンと血糖を上げるグルカゴンの作用によって調節されています。食事により摂取した糖などの栄養素は胃で分解され腸で吸収され血液中に入り血糖値が上昇します。血糖値が上昇するとグルコースはGLUT2トランスポーターまたはGLUT1トランスポーターを通って膵臓のランゲルハンス島β細胞に流入し、グルコキナーゼの作用によりグルコースがグルコース6リン酸になると、細胞内にカルシウムイオンの流入が起こりインスリンが放出される。インスリンの血糖降下作用は三つの経路が知られています。
- インスリンは肝臓でのグリコーゲン合成を促進し、糖新生とグリコーゲン分解の双方を抑制する。
- インスリンは骨格筋と脂肪組織でのグルコース取り込みを促進する(グルコーストランスポーターの動員による)
- インスリンは膵α細胞に入って直接グルカゴンの産生を抑制する。
血糖を上げるメカニズムは4つあります。
血糖値が高くなったとき血糖値を下げる(調節)するホルモンはインスリンしかない。暴飲暴食など乱れたライフスタイルや遺伝性の疾患により血糖値を下げるメカニズムがコントロールできなくなったら大変な事である。また、逆に血糖値が低い状態が続くと生命を維持するのも危ぶまれる状況に陥りそうならない為に低血糖ならない為の仕組みがあります。
- 血糖値が約80mg/dLを下回ると、血糖値を下げるホルモンであるインスリンの分泌が極端に低下する。
- 約65-70mg/dLに低下すると、血糖値を上げるホルモンであるグルカゴン、アドレナリンが大量に放出され始める。
- 約60-65mg/dLに低下すると、三番目の血糖値を上げるホルモン、成長ホルモンが放出される。
- 最後に60mg/dLをきるようになると、最後の血糖値を上げるホルモン、コルチゾールの分泌が亢進する。
血糖値の異常な低下は生命の維持危機を引き起こします。
ブドウ糖は脳などのエネルギー源でもあり、血糖値が50mg/dlを下回ると精神症状や意識消失を引き起こし、重篤な場合は死に至る事もあります。しかし、上記のような回避システムが血糖値50mg/dLにいたるのを防いでいるため、通常は意識に異常をきたすには至らない。そのかわりとして、アドレナリンが大量放出されることに伴い交感神経刺激症状があらわれ、大量の冷や汗、動悸、振戦、譫妄の症状が出る。また、アドレナリン、ノルアドレナリンによる諸症状として、精神症状は、にらんでいるような顔つきになり、暴力をふるったり、奇声をあげたりすることがある。身体症状は心拍数や拍出量の増加、血糖と脂質の上昇、代謝の亢進、手足の冷え、呼吸が浅い、眼の奥が痛む、動悸、頻脈、狭心痛、手足の筋肉の痙攣、失神発作、月経前緊張症、手指の震えなどがある。低血糖症の症状のなかでも、細胞のエネルギー不足で起こる症状は、異常な疲労感、日中でも眠気をもよおす、集中力欠如、めまい、ふらつき、健忘症、光過敏症、甘いもの欲求などがあげられる。
逆に、管理がうまくいっていない糖尿病患者などにおいては、あまりに高血糖状態が続くため、100mg/dL前後のような普通は低血糖とはみなされないような濃度でも低血糖発作をおこしてしまう。これは脳のGLUT1トランスポーターが調整過剰になっているためである。
その他のホルモン検査一覧
ホルモン血液検査項目 | 備 考 | |
副腎皮質刺激ホルモン | 高値:コルチゾールが高値を示す場合:下垂体性のクッシング症候群 コルチゾールが低値:アジソン病が疑われます。 低値:コルチゾールを示す場合:副腎腫瘍によるクッシング症候群。下垂体の機能低下や、副腎皮質ホルモン薬の大量服用においても低値をしめします。 |
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コルチゾール | ストレスに関与し、過度なストレスを受けると分泌量が増加します。その反応はとても敏感であるため、ストレスホルモンとも呼ばれています。 | |
レニン活性 | PRAは、その異常な亢進または抑制が二次性高血圧症の診断に有用です。高血圧以外の電解質代謝異常症の診断にも有用です。 | |
アルドステロン | 原発性アルドステロン症などの高血圧性疾患、、浮腫疾患などの鑑別診断における重要な検査です。 | |
甲状腺刺激ホルモン | 高値 甲状腺ホルモンが低値または正常の場合は、原発性甲状腺機能低下症を、甲状腺ホルモンが高値の場合はTSH産生腫瘍や甲状腺ホルモン不応症を疑う。 低値 甲状腺ホルモンが低値の場合は二次性・三次性甲状腺機能低下症、高値の場合はバセドウ病などの甲状腺機能亢進症を疑う。 |
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甲状腺ホルモン FT3 FT4 |
甲状腺機能亢進症の治療による寛解例では、一般にFT3はFT4に遅れて正常化するといわれている。一方病態増悪時には逆になるためこれらの測定は病状把握に有用とされています。 | |
高値の場合は、甲状腺機能亢進症か亢進を伴わない甲状腺中毒症を鑑別するためにヨード摂取率を検査が必要となります。TBG異常もチェックする必要があり、T4、あるいはT3、TBGも測定するのが望ましいとされています。 | ||
副甲状腺ホルモン | カルシウムおよびリン酸代謝に関与する各臓器の機能を検査する上で重要な指標です。 | |
黄体形成ホルモン | 高値 性腺機能低下・不全症(卵巣、または精巣機能低下症、[Turner症候群、Klinefelter症候群、睾丸女性化症候群など]) 低値 下垂体機能低下・不全症(下垂体機能低下症、視床下部機能低下症、神経性食欲異常症、Sheehan症候群、Simmonds症候群) |
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卵包刺激ホルモン | 高値 卵巣、または精巣機能低下症(Turner症候群、Klinefelter症候群、睾丸女性化症候群など) 低値 下垂体機能低下症、視床下部機能低下症、神経性食欲異常症、Sheehan症候群、Simmonds症候群 |
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インスリン | インスリンは、糖代謝ならびにアミノ酸、脂質代謝などに関与する膵由来のホルモン。糖尿病の診断・病態把握、膵機能の診断に有用です。 |