アンモニア(NH3)の基準値
生化学血液検査項目 | 基準値(参考値) | |||
生化学血液検査名称 | 略称 | 数値 | 単位 | |
アンモニア | NH3 | 30~80 | μg/dl |
アンモニア(NH3)血液検査の目的
アンモニア(NH3)の血液検査は、肝臓病の進んだ人が、肝性昏睡になる可能性の有無をみる検査です。肝性昏睡とは、肝臓病が重症化することによっておこる昏睡状態をいいます。死に至る可能性が高いため、肝性昏睡がおこる可能性のある場合は、このアンモニア検査を行います。アンモニアは、生体にとって猛毒(神経毒)であるため、通常は肝臓で尿素となって無毒化されます。しかし、肝臓の機能が低下する様な疾患(劇症肝炎や肝硬変、肝臓がんなど)では、尿素が合成できずに血液中にアンモニアが増加します。その結果、アンモニアは神経毒となるため中枢神経が障害され、手・指のふるえ、言語障害、視力減退などの脳症状を引きおこし、ついには昏睡に陥ります。なお、アンモニア(NH3)の低値は、低栄養状態や貧血で認められますが、病的意義は少なく、治療を行う事はまれです。
血液検査結果からわかる病気
アンモニア(NH3) | 考えられる原因と疾患の名称 |
基準値より高値 | 劇症肝炎、尿素サイクル酵素欠損症、高タンパク症、肝性昏睡、肝癌、肝硬変、乳幼児の高アンモニア血症 |
基準値より低値 | 低タンパク症、貧血 |
【備考】 アンモニア(NH3)は成人より小児のほうが高値です。また、アンモニアは、激しい運動をしたあとや高蛋白質の食事をとったあとでは高値になります。血中アンモニアは食事(食後1~4時間で約2倍)や運動によって増加するため、採血は安静空腹時に行います。さらに、採血後は赤血球からのアンモニアの遊離、蛋白やアミノ酸からのアンモニアの生成により濃度が上昇するため、溶血や全血放置した場合は著増します。アンモニア専用容器に含まれる除蛋白液にはアンモニア発生の原因となる酵素を失活する成分が入っていますが、採血してから除蛋白液と混合するまでの時間が長いほど、温度が高いほど測定値が上昇し、除蛋白液を添加した検体でも室温で放置した場合は1時間で約70%上昇します。よって、採血後は速やかに除蛋白液と混合した後、遠心して上清を分離します。すぐに遠心分離できない場合は、冷蔵庫あるいは氷水で保存してください。この場合4℃以下まで急速に冷却しなければならないので、必ず氷に水を加えて「氷水」で冷やします。 【関連項目】 総ビリルビン、直接型ビリルビン、総たんぱく、アルブミン、コリンエステラーゼ、チモール混濁試験、硫酸亜鉛混濁試験、AST(GOT) ALT(GPT)、γ-GTP、アルカリフォスファターゼ、ロイシンアミノペプチターゼ、乳酸脱水素酵素、インドシアニン・グリーン、アンモニア、総コレステロール、B型肝炎ウイルス表面蛋白抗原、C型肝炎ウイルス核酸定性、C型肝炎ウイルス核酸定量 |
アンモニアは消化管で食物由来のアミノ酸が腸内細菌により、あるいは尿素が細菌や腸管粘膜によって分解されて生成されます。肝機能が正常であれば、肝臓で代謝・解毒され尿となって排泄されます。重症肝疾患では腸管におけるアンモニアの産生が増加し、肝臓の解毒機能が低下するため血中アンモニア濃度が増加します。また、肝硬変や特発性門脈圧亢進では門脈と大循環系が短絡して腸管由来のアンモニアが大循環へ流入するため、高値を示します。その他、尿毒症、腎障害、細菌感染症、消化管出血、バルプロ酸ナトリウム服用、便秘などでも高値となることがあります。
意識障害、知能障害、けいれんなどで高値
アンモニア(NH3)の検査は、通常重い肝臓病の病態を確認するために行う検査ですが、小児では意識障害、知能障害、繰り返す嘔吐、成人では、意識障害、けいれん、アンモニア臭などの症状がみられたとき、高アンモニア血症を疑って検査します。
肝性昏睡の予防方法
肝性昏睡の治療対策は、アンモニア(NH3)を中心とした中毒物質の生成の抑制、血液中の遊離型のアミノ酸の質的・量的な異常を是正を目的とした薬物療法を中心に行います。
また、予防として、アンモニア(NH3)高値の誘因となる食事における蛋白質の過剰摂取を避け、便秘・下痢予防、利尿薬の投与中止をします。肝硬変などの場合は、筋力低下を防ぐため、適切な筋力トレーニングなどを行います。