真性多血症は、造血幹細胞に異常が生じる慢性骨髄増殖性疾患の一つであり、赤血球が過剰に産生される造血器腫瘍です。

真性多血症の症状・原因・治療

真性多血症は、造血幹細胞に異常が生じる慢性骨髄増殖性疾患の一つであり、赤血球が過剰に産生される造血器腫瘍です。赤血球の増加が顕著に表れると言われていますが、多くの場合、血小板や白血球の増加も見られます。真性多血症における赤血球の過剰産生は、血液粘度を亢進させ、その結果、血流障害を引き起こすリスクが上昇します。血流障害には、微小血管に血栓が乗じる微小血管症状、大血管に血栓が生じ大血管合併症(心筋梗塞、脳梗塞など)があります。また、患者に倦怠感やそう痒(かゆみ)が生じることも大きな特徴の一つです。

慢性骨髄増殖性疾患(腫瘍)

の五つにわけられます。真性多血症では赤血球の増加が著しく、本態性血小板血症では、血小板が著しく増加する事が特徴です。特発性骨髄線維症においては、骨髄が線維化することにより、正常な造血機能が失われるため脾臓などにおいて髄外造血によって血液が造られるようになります。それに伴い、脾臓の腫れなどが起こります。

真性多血症の診断基準

真性多血症の診断には、WHOの分類大4版の診断基準が一般的に使用されます。この診断基準は大項目と小項目で構成されており、大項目の1と2の両方を満たす、または大基準の1と小項目の2つ以上を同時に満たすことで真性多血症と診断して間違いないとしています。

大項目

  1. ヘモグロビン値(Hg) 男性18.5g/dl 女性16.5g/dl以上
    もしくは以下の所見のいずれかが確認できる
    • HgもしくはHtが年齢、性別、居住地の高度(空気の薄さ)を考慮した基準値の99%タイル値を超える
    • Hgが男性で17g/dl、女性で15g/dl以上、かつ発症前の平均値より2g/dl以上の増加
    • 赤血球量が予測値の25%を超える。
  2. JAK2V617F変異遺伝子、もしくは類似したJAK2遺伝子変異が存在する。

小項目

  1. 骨髄において赤血球・白血球・血小板各系統の増生が認められる。
  2. 血清エリスロポイエチン値が低値を示す。
  3. 内因性の赤芽球コロニー形成がある。
 

真性多血症の原因

真性多血症の原因は、造血幹細胞の増殖に重要な役割を持つJAK(ナヌスキナーゼ)2遺伝子の後天性の変異である事が分かっています。この遺伝子変異が下流へのシグナル伝達物質であるSTATの恒常的リン酸化を引き起こすため、細胞増殖が促進される。この事がこの真性多血症の病態の根幹であると考えられています。

  • 正常時
    エリスロポエチン(サイトカイン)が受容体に結合することで細胞の増殖が行われます。
  • 真性多血症
    JAK2に変異が高率に生じているため、エリスロポエチン(サイトカイン)の重要体への結合の有無にかかわらず、恒常的に細胞の増殖が行われるようになります。結果として、赤血球を始め、白血球や血小板の増加を来します。
 

真性多血症の年齢・性別分布

  • 真性多血症は、希少疾患で罹患率は、人口10万人あたり0.7~2.6人と推定されています
  • 真性多血症の性別差は 男性:女性=1.3:1.0
  • 真性多血症は、診断時において60~65歳に多く、40歳未満は約10%
 

真性多血症の症状

真性多血症の症状は、初期では無症状の場合が多いとされていますが、疾患の進行に伴い様々な症状が出てきます。真性多血症には、大きく分けて①サイトカイン関連症状、②過粘稠関連症状、③脾腫関連症状、以上の3つの関連症状があります。

  1. サイトカイン関連症状:倦怠感、掻痒(かゆみ)、寝汗、骨痛、発熱など
    サイトカイン関連症状は骨髄線維症患者と症状の種類や頻度が類似していますが、掻痒(かゆみ)については、骨髄線維症患者と比較し、真性多血症患者に多くみられ、重篤であると言われています。この掻痒について、患者の約15%が「耐え難い」と表現しています。
  2. 過粘稠関連症状:頭痛、皮膚発赤、視力障害、耳鳴り、肢体の灼熱感
    これらの症状は、微小血管に血栓が形成されることにより生じるものです。血小板の増加を伴うケースでは肢端紅痛症(四肢末端に非対称性に焼けたような痛みを伴う赤く充血した腫脹が生じる)が見られる事があります。
  3. 脾腫関連症状:早期満腹感、腹部不快感、腹痛
    真性多血症の進行に伴い、約40%で症候性の脾腫が見られます

これらの真性多血症の症状は、生活の質(QOL)を著しく低下させる事が分かっています。

 

真性多血症の合併症

真性多血症における、赤血球などの増加は、心筋梗塞や脳梗塞等といった生命の危機に瀕する重大な疾患を引き起こすリスクがあります。近年では、白血球の増加においても血栓症のリスク因子となりうる事が確認されています。さらに、真性多血症を長期にわたり罹患している患者さんの一部では、骨髄線維症や白血病へと移行するケースも確認されています。

  1. 心筋梗塞・脳梗塞
    真性多血症では、赤血球などの増加により血栓が形成されやすくなっているため、大血管を詰まらせるリスクが高まります。大血管に血栓が生じる事で、心筋梗塞や脳梗塞が引き起こされます。これらは、命に危険を及ぼす重大な合併症のひとつです。
  2. 出血性症状
    真性多血症では、血液中に異常な血小板が増加するため、本来の働きである止血の役割が機能しにくくなります。そのため、皮膚や粘膜において出血傾向が出てきます。
  3. 骨髄線維症
    真性多血症を長期にわたって罹患している患者さんに見られる原因不明の合併症です。骨髄線維症は、骨髄内に繊維質のコラーゲンが生成し、骨髄が硬質化し造血機能がうまく働かなくなる疾患です。それに伴い、貧血、腹部膨満感などがみられるようになります。
  4. 白血病
    骨髄線維症と同様、真性多血症を長期にわたって罹患している患者さんに見られる合併症の一つです。白血病は、正常な白血球が作られる過程で、ガン化することにより発症し、骨髄内で、ガン化した細胞が増殖、その結果、正常な血液を作る場所が少無くなります。そのため、正常な血液を作る事が出来なくなり、感染症、貧血、出血傾向を引き起こします。
 

真性多血症のリスク因子

真性多血症では、様々な症状・合併症により、予後不良であるといわれています。そのため、血栓症・出血、疾患進行のリスク因子を特定することが治療を進めていくうえで重要となります。

  1. ヘマトクリット高値
    ヘマトクリット値を45%未満にコントロールした群は、45~50%にコントロールした群と比較し、心血管死および腫瘍血栓症の頻度は優位に低かったとの報告があります。
  2. 年齢、血栓症の既往歴
    60歳以上、または、血栓症の既往歴あり
  3. 白血球数増加
    白血球数増加は、血栓症リスク因子の一つで、特に心筋梗塞の発症リスクを高めます。また、細胞減少療法(ヒドロキシカルバミド)実施にも関わらず、白血球数が1万以上の場合、1万/mm3未満と比較し、骨髄線維症(MF)や急性骨髄性白血病(AML)への移行リスクが3.2倍に増加するとの報告があります。
  4. 血小板数増加
    細胞減少療法(ヒドロキシカルバミド)実施にも関わらず血小板数が40万以上の場合、40万未満の場合と比較し、血栓症の発症リスクが高まるとの報告があります。
  5. 脾腫
    真性多血症の診断時に脾腫が認められるケースでは、骨髄線維症(MF)や急性骨髄性白血病(AML)への移行リスク上昇、生存期間の短縮の報告があります。
  6. ヒドロキシカルバミド抵抗性または不耐容
    ヒドロキシカルバミドに抵抗性を示した群では、そうではない群と比べて、死亡リスクが5.6倍に上昇したと報告されています。
 

ヒドロキシカルバミド抵抗性または不耐容について

ヒドロキシカルバミド抵抗性

ヒドロキシカルバミド2g/日以上の投与を3カ月継続しても
  • ヘマトクリット値45%未満を維持するために瀉血が必要。
  • 骨髄系細胞の増殖抑制不能 血小板数:40万以上、白血球数:1万以上 など
  • 脾腫の縮小が不十分 又は 脾腫による症状の改善が不十分

ヒドロキシカルバミド不耐容

ヒドロキシカルバミド投与が、完全奏功或いは部分奏功の必要最低容量で、
  • 絶対好中球数:1000未満 又は 血小板数:10万未満 Hb:10g/dl未満
ヒドロキシカルバミド投与がいかなる量であっても
  • 下腿潰瘍
  • 許容できないの皮膚粘膜症状の兆候
  • 消化管症状、肺臓炎などの非血液学的毒性
  • 発熱
 

真性多血症の治療

真性多血症における治療の目的

  • 血栓や出血リスクの低減
  • 症状の管理
  • 疾患進行リスクを最小限に低減
 

血栓や出血といった生命予後を大きく左右する合併症の予防にあります。そのため、ヘマトクリット値のコントロールを行います。

ヘマトクリット値の目標値  45%

ヘマトクリット値を45%未満にコントロールした群は、45~50%にコントロールした群と比較し、心血管死および腫瘍血栓症の頻度は優位に低かったとの報告があります。
 

また、真性多血症では、脾腫や脾臓の消耗による日常生活に大きな影響を与える症状が多くみられることも多くあるため、それらに対する対症療法も同時に行われます。

 

真性多血症の具体的治療法

真性多血症の治療は、ヘモグロビンコントロール、症状のコントロール、進行リスクコントロールを主体として行われます。ただし、リスク分類により治療法が異なります
  • 瀉血療法
  • 細胞減少療法
  • 抗血栓療法
  • その他の治療法
真性多血症のリスク分類
  • 高リスク
    60歳以上、または、血栓症の既往歴あり
  • 低リスク
    60歳未満、且つ、血栓症の既往歴なし
 

高リスク区分の治療

  • 瀉血療法
  • 細胞減少療法
    細胞減少剤の1st line としてはヒドロキシカルバミドが推奨使用されています。投与により速やかな造血抑制効果がみられ、投与中止により造血機能が速やかに回復します。
  • 抗血栓療法:低用量アスピリン
ヒドロキシカルバミド(抗ガン剤)による細胞減少療法について

*妊娠を希望する女性や妊婦では、インターフェロンを使用する場合があります。
*ヒドロキシカルバミドに対する抵抗性がみられる、ヒドロキシカルバミドによる副作用のため使用できない場合は、ラニムスチンやブスルファンが用いられることがあります。

 

低リスク区分の治療

  • 瀉血療法
  • 抗血栓療法:低用量アスピリン
低リスク区分の細胞減少療法について

以下のケースでは、ヒドロキシカルバミド(抗ガン剤)による脂肪減少療法がおこなわれます。

  • 60歳未満で血栓症の既往がある
  • 60歳未満で白血球数が1.5万/mm3以上
  • 進行性の骨髄細胞増殖や核型異常がみられる

*妊娠を希望する女性や妊婦では、インターフェロンを使用する場合があります。
*ヒドロキシカルバミドに対する抵抗性がみられる、ヒドロキシカルバミドによる副作用のため使用できない場合は、ラニムスチンやブスルファンが用いられることがあります。

 

リスク区分共通の治療

新しい治療薬のカテゴリーとしてJAK阻害剤があります。JAK阻害剤は、従来、ヒドロキシカルバミドにおける抵抗性或いは不耐容になった場合の二次治療に用いられてきました。

JAK阻害剤の効果
  • ヒドロキシカルバミド抵抗性または不耐容の真性多血症におけるヘマトクリット値のコントロール
  • 脾臓容積の縮小(症候性脾腫に対する治療)
  • 倦怠感、そう痒などの全身症状の改善
    従来の治療薬ではコントロールが難しいとされていました。

真性多血症の予後

  • 真性多血症患者では、様々な症状や合併症により、生命予後が不良であるとされています
  • 生存期間中央値は18.9年。
  • 真性多血症における主要な死因
    • 血栓症(血栓症を含む心血管事象は全死因の45%)
    • 骨髄線維症(MF)や急性骨髄性白血病(AML)等への移行