骨髄線維症とは、骨髄の広い範囲に線維化がみられ、骨髄穿刺で骨髄液が採取できないのが特徴です。

骨髄線維症の症状、原因、検査および治療方法

骨髄線維症とは、骨髄の広い範囲に線維化がみられ、骨髄穿刺で骨髄液が採取できないのが特徴です。骨髄線維症は、原発性と2次性に分けられます。このうち、原発性骨髄線維症とは、造血幹細胞の腫瘍性増殖により、骨髄の広汎な線維化と脾腫を伴う疾患で、骨髄増殖性腫瘍のひとつに位置づけられています。二次性骨髄線維症は、他の疾患に伴っておこる骨髄の線維化で、造血系腫瘍(白血病や悪性リンパ腫など)や結核などの炎症性疾患、膠原病および骨疾患などでみられます。以下、原発性慢性骨髄線維症について述べます。

骨髄線維症の種類

原発性骨髄線維症とは

原発性骨髄線維症は骨髄の広範な線維化と骨硬化、髄外造血を特徴とする慢性骨髄増殖性疾患の一つです。その本態は本態性血小板血症、真性多血症と同様に造血幹細胞レベルで生じた遺伝子異常であり、造血細胞はモノクローナルに増殖、特に血小板産生細胞である巨核球から産生される種々のサイトカインが骨髄の間質細胞に作用して、骨髄の線維化、骨硬化、血管新生などの反応性のポリクローナルな骨髄間質細胞の増殖が生じます。

 真性多血症、本態性血小板血症と同様に骨髄線維症においてもサイトカインのシグナル伝達に必須であるチロシンキナーゼであるJAK2に35-57%の頻度で異常が認められます。JAK2に遺伝子変異が生じると本来はエリスロポイエチン(赤血球増加因子)、トロンボポイエチン(血小板増加因子)などのサイトカインの刺激に応じて活性化されるJAK2が、これらの刺激がない状態でも常に刺激を受け、細胞は自立的な増殖は行うこととなります。また少数の症例(4-5%)ではトロンボポイエチンのレセプターであるc-mplという遺伝子に変異が見られ(Ref 1)、JAK2と同様に細胞が自律増殖するようになります。血小板産生細胞の巨核球を中心とした造血細胞が増加することによって、これらの細胞から産生されるtransforming growth factor(TGF-β)が増加し、線維化の中心的な役割を果たします。また巨核球や骨髄間質細胞から産生されるosteoprotegerin (OPG)が骨硬化に関与している可能性が示唆されています

二次性骨髄線維症とは

造血系腫瘍(白血病や悪性リンパ腫など)や結核などの炎症性疾患、膠原病および骨疾患などでおこる骨髄の線維化をいいます。*2012年に欧州においてJAK阻害剤ruxolitinibが骨髄線維症の治療薬としてはじめて承認されています。

骨髄線維症の症状

造血幹細胞に遺伝子変異が生じ、その結果血液細胞が増殖することが原因と考えられています。約50%の患者さんでは、JAK2という遺伝子に異常が生じています。骨髄の線維化をきたす理由は、骨髄で増殖している血小板の母細胞である巨核球から線維芽細胞増殖を促す因子が産生放出されるためです。

骨髄線維症を発症から3-5年は無症状で進行します。その後、徐々に脾臓や肝臓が腫れるため腹部膨満感、圧迫感、食思不振、体重減少、微熱、盗汗(病的な寝汗)、皮膚掻痒および痛風などがみられます。 さらに進行すると、貧血の症状(倦怠感、疲労感、立ち眩みなど)が出現します。また、脾臓に梗塞ができると激しい左上腹部痛がおきます。血小板減少がすすむと皮膚粘膜の紫斑など、出血傾向も出現してきます。

骨髄線維症の検査

骨髄検査・血液検査・脾肝腫をみるためのCTやMRI、エコー検査などの腹部の検査が行われます。骨髄検査では骨髄穿刺では骨髄を採取することができないことが多くあります。また線維化の程度をみるためもあり、骨髄生検が必要となる。 また、骨髄の線維化は均一でなくムラがあるため、疑いの強い患者には異なる部位で骨髄生検することが必要になります。

骨髄線維症の治療

自覚症状や貧血が軽度のときは、無治療で経過をみます。脾腫のための圧迫感や痛みがあれば、摘脾や脾への放射線治療なども考慮されます。貧血や血小板減少が著明になれば、それぞれの成分輸血も必要です。

薬物療法としては、蛋白同化ホルモンや抗腫瘍剤であるメルファラン、サリドマイド、レナリドマイドなどの有効性が報告されています。一部の患者さんでは、これらの薬物療法により貧血や血小板減少に効果が認められていますが、一般的な治療法ではなく、専門医の診療が必要です。今後、新規薬剤として、JAK2阻害薬、ポマリドマイドなどが臨床試験を経て、実地診療への導入が期待されています。ただし、これら薬物療法によって「生命の予後が改善されるかどうか」に関しては、わかっていません。

現時点で唯一、治癒をもたらしうる治療法は、同種造血幹細胞移植です。しかし、移植関連死亡率も高く、その適応については、専門医との十分な相談が必要です。

予後不良因子とは以下のものがあげられます。
(1)Hb 10g/dl未満の貧血、(2)発熱・発汗・体重減少などの症状の持続、(3)末梢血に1%以上の芽球の出現、(4)男性であることが挙げられますが、これらの予後不良因子を1つ以下しか有さない症例の10年生存率は84%、2つ以上有する症例では31%と報告されています。 白血病への転化率は30%以下であるが転化した場合は予後不良です。

以上のことから、治療は合併症の管理が主体となります。

貧血対策など血液所見の改善や脾腫の対策

①ステロイドや化学療法(ハイドレア、エトポシドなど)
②蛋白同化ホルモン(タナゾール)、メルファランやサリドマイドも有効との報告があります。
③貧血や血小板減少が高度であれば輸血も行われる。
④巨脾や脾梗塞による症状が強い場合は、脾臓摘出や脾臓への放射線治療も行われます。ただし脾臓摘出や脾臓への放射線治療は貧血を悪化させる可能性があります。


*欧州でJAK阻害剤ruxolitinibが骨髄線維症の治療薬として承認
 原発性骨髄線維症(慢性特発性骨髄線維症)、真性多血症後の骨髄線維症、または本態性血小板血症後の骨髄線維症の成人患者における脾腫または諸症状の治療薬として、欧州委員会により承認されたと発表した。これによりruxolitinibは欧州で承認された初めての骨髄線維症の治療薬となった。
 詳しい記事はこちらをご覧ください↓http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/search/cancer/news/201208/526519.html

骨髄線維症の治療期間と予後

原発性慢性骨髄線維症の診断がついてからの平均寿命は約4年です。しかし、個人差が大きく、中には無症状のまま経過される方もおられます。貧血、血小板減少、白血球減少あるいは増加、幼若な白血球(芽球)の増加などが予後不良因子となります。また、何らかの自覚症状があること、女性より男性、高年齢なども予後不良因子となります。約15%が白血病に移行しますが、この場合は治療が極めて難しく、やはり予後不良です。肺炎などの感染症、出血、白血病化、食道静脈瘤破裂なども死亡の原因となります。