脂質異常症(高脂血症)の食事療法
特に重要なのは食事療法で、これは適正体重の維持と深く関わっています。
食事療法は、以下ように2つの段階をに分けて進められます。第1段階は適正な食事にすること、第2段階は、病気のタイプに応じて、食事制限をしていきます。脂質異常症から動脈硬化を引き起こし様々な病気を引き起こすことのないう、第一段階の食事でコントロールすることが快適な生活を送る上で重要なこととなります。
脂質異常症(高脂血症)の食事療法の基本
第1段階(摂取エネルギー、栄養素配分、コレステロール摂取量の適正化) | |||
①摂取エネルギーの適正化 |
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適正エネルギー摂取量=標準体重*×25~30(kcal) *標準体重=[身長(m)]× [身長(m)]×22 |
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②栄養素配分の適正化 |
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・ 炭水化物:60%(エネルギー比) ・ たんぱく質:15~20%(エネルギー比) 獣鳥肉より魚肉・大豆たんぱくを多く ・ 脂肪:20~25%(エネルギー比) 獣鳥性脂肪を少なく、植物性・魚肉性脂肪を多く ・ コレステロール:1日300mg以下 ・ 食物繊維:25g以上 ・ アルコール:25g以下 他に合併症がある場合はそちらを優先します。 ・ その他:ビタミン(C、E、B6、B12、葉酸など)やポリフェノールの含量が多い野菜・果物などの食品を多くとる ただし、果物は単糖類の含量も多いので摂取量は1日80~100kcal以内に *エネルギー比とは、総エネルギーに占める割合を示しています。 例)総エネルギー:1800kcal 蛋白質エネルギー比:15% 計算:(1800kcal×15)/100=270kcalとなります。 たんぱく質は1g当たり4kcalですので、約68gとなります。 *1g当たりのエネルギー たんぱく質、炭水化物:4kcal 脂質 :9kcal となります。 |
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第2段階(病型別食事療法と適正な脂肪酸摂取) | |||
①高LDL-C血症(高コレステロール血症)が持続する場合 |
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・脂質制限の強化 脂肪由来エネルギーを総摂取エネルギーの20%以下 ・コレステロール摂取量の制限 コレステロール摂取量200mg以下 ・脂肪酸の摂取比率の見直し 飽和脂肪酸/一価不飽和脂肪酸/多価不飽和脂肪酸の摂取比率:3/4/3程度 |
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②高トリグリセリド血症が持続する場合 |
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・アルコール制限 禁酒 ・炭水化物の制限 炭水化物由来エネルギーを総摂取エネルギーの50%以下 ・単糖類の制限 単糖類をできる限り制限、1日80~100kcal以内とし、果物を除き調味料のみでの使用とします。 *単糖類とは、果糖、ブドウ糖、ガラクトースなどをいいます。 |
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③高コレステロール血症と高トリグリセリド血症がともに持続する場合 |
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・①と②を併用した食事療法を行います。 |
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④高カイロミクロン血症の場合 |
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・脂肪の制限:15%以下 |
脂質異常症(高脂血症)の運動療法
脂質異常症(高脂血症)の改善は認知療法から
1日に食べた物を書き出してみましょう
脂質異常症の治療において重要なことは、どんな生活習慣が今回の脂質異常症という疾患を招いたのかということを、生活習慣の観点から問題を洗い出すことです。今までの生活習慣の問題を把握することで、改善すべき点を明確にし治療に向けたモチベーションを維持することにもつながります。
把握するためにはまず書くことから始めます。まずは、平日と休日の1日の食事内容(水を省いた口に入れたものすべて)を書き出します。
「書く」という行為は「認知行動療法」に通じるため、治療のモチベーションを高めるには最適です。
主治医と相談しながら、3ヶ月ごとの目標を立てましょう
かかりつけの主治医と相談して、当面3ヶ月間の改善目標を決めることが大切です。
ここで、目標を掲げるときに重要なことは、無理な目標はたてないこと。 例えば、ダイエットをするときに100kgの体重を50キロに1か月でしよう。これはどう考えても無理な目標ですし、明らかに健康上問題です。 どんな目標についても同じことが言えますが、容易に達成できる目標ではなく、少し頑張れば達成できる目標にすることがモチベーションを維持するうえでも、健康を守る上でも大切なことです。
例えば
1、3食きちんと栄養バランスを整えて食べる
2、脂質の吸収を抑える食物繊維を摂る
3、1日30分の有酸素運動を行う など。
確実に実行できることを目標として掲げ実行するようにしましょう。また、病院によっては栄養指導も行っているところもありますので、ぜひ活用するようにしましょう。
頑張った結果を脂質異常症(高脂血症)の検査で確認
治療に向けて頑張ったら、結果は必要ですね。3ヶ月後に再び病院にいき血液検査をしてもらいましょう。変化が出てきたら成功。変化がなかったり上昇している場合は、何かしらの問題がある場合がありますので、主治医と相談し目標内容と実行内容の吟味をしましょう。
女性は脂質異常症(高脂血症)の改善効果が大きい
もちろん、総コレステロール値が280mg/dLなど非常に高い場合は、最初から薬による治療が検討されることもあります。ただ、閉経前の女性は、エストロゲン(女性ホルモン)の作用でLDL(悪玉)コレステロールが高くならないように調整されるので、間食の多い方や運動不足の女性では生活改善の効果が期待できます。閉経前はまず生活改善を、エストロゲンの分泌が減少する閉経前後からは生活改善と薬の併用も選択肢の一つです。検査値しか手がかりがないため、つい効果が期待できる薬に頼ってしまう脂質異常症ですが、少し体重を減らしただけで数値が改善するケースもあります。まずは、今晩の食事から生活改善を始めてみませんか。
脂質異常症(高脂血症)の運動の内容と効果
脂質異常症などの脂質の以上が認められる疾患において運動はとても効果的な治療法の一つです。しかし、健康状態や持病によっては運動療法を最大限に取り入れることができないケースもありますので、その場合は主治医の指導に従いましょう。
運動の種類:ウォーキング(速歩)、ジョギング、水泳、自転車、社交ダンスなどの有酸素運動。
運動時間・頻度:運動はできれば毎日ですが、週に3~4日でも効果は出てきます。1日30-60分間程度。運動は続けることが重要です。最初は無理をせず少しずつ実施していきましょう。あくまでも、ここにある運動量などは、目標とちらえることが大切です。
運動強度:有酸素運動とは、肩で息をするほどの運動ではなく、息がはずむ程度が最適です。息が切れるほどの感覚を覚えるときは運動強度が強すぎることを意味しますので、見直しをしましょう。
血中脂質の改善は、すぐの効果は望めませんので、あくまでも3カ月スパンで見るようにしましょう。
有酸素運動が血中脂質レベルを改善させるプロセス
筋のリポプロテインリパーゼ活性が増大することにより、トリアシルグリセロール(血中カイロミクロン、VLDL、LDL)の分解を促進させ、HDLを増やすことが関与していると考えられています。
HDLの役割
「善玉コレステロール」として知られ、末梢組織や細胞から余剰なコレステロールを回収し、肝臓に運搬する役割を有しています。
HDLコレステロールを増加させることができる運動・身体活動の最低条件として、1週間に合計120分間の運動を行うか、1週間に合計900kcalのエネルギーを消費する身体活動を行うことが望ましいとされています。
運動をする前にメディカルチェックを!
メディカルチェックを受け、狭心症や心筋梗塞などの心血管合併症の有無を確認し、運動療法の可否を確認した後に、個人の基礎体力、年齢、体重、健康状態などを踏まえて運動量を設定する必要があります。脂質異常症の改善には運動療法だけでなく、食塩摂取量やアルコール摂取量の制限、禁煙などとの併用療法がより効果的です。
脂質異常症(高脂血症)の薬物療法について
生活習慣が改善が上手にできない人、生活習慣を改善しても改善効果が得られない方、以上の方は生活改善療法を初めて3~6か月経過したあたりで、動脈硬化、そして心筋梗塞や脳梗塞のリスク回避を目的として、薬物療法の対象となります。
ただし、家族性高コレステロール血症の場合は、原因が明らかであるためリスク回避のために最初から薬物療法をはじめます。また、薬を飲んでいるから暴飲暴食をしてよいということではありませんので、引き続き食事療法をはじめ、生活習慣の管理を引き続き行うようにしましょう。
脂質異常症の具体的薬について
薬\対象脂質 | LDLコレステロール | HDLコレステロール | トリグリセリド | 主な働き |
HMG-CoA還元 酵素阻害薬 |
肝臓でLDL-コレステロールが合成されるのを抑える | |||
プロブコール | コレステロールが酸化し、血管に付着するのを防ぐ | |||
陰イオン 交換樹脂 |
腸の中でコレステロールと胆汁酸の吸収を抑える | |||
ニコチン酸 誘導体 |
脂肪酸が集まって中性脂肪になるのを防ぐ | |||
フィブラート系薬 | 中性脂肪の合成を抑制する | |||
イコサペント酸 エチル |
血小板の働きを抑制して固まるのを防ぐ |