脂質異常症(高脂血症)を治療していくうえで、重要な事は食生活の改善と生活習慣の改善です。

脂質異常症(高脂血症)を生活習慣で改善

脂質異常症(高脂血症)を治療していくうえで、重要な事は食生活の改善と生活習慣の改善です。ここでは、食生活を含め、生活習慣の改善を中心に書いています。また、運動についても書いていますので参考にしてみてください。

国内の脂質異常症(血中のLDLコレステロール値が140mg/dL以上、HDLコレステロール値が40mg/dL未満、トリグリセライド(中性脂肪)値が150mg/dL以上)の有病者の割合は、成人で20%以上にも及ぶといわれております。脂質異常症治療の基本は、生活習慣の改善と薬物治療がありますが、冠動脈疾患を合併しない場合、食事療法と運動療法に重点を置いた生活習慣改善を最初に行い、次のステップとして、薬物療法との併用療法を行うとされています。日本動脈硬化学会の動脈硬化性疾患診療ガイドラインによると、脂質異常症のための生活習慣の改善項目は、1)減量:適正体重の維持(BMI18.5-24.9kg/m2の範囲)、2)減塩:食塩摂取の制限(7g/日以下)、3)アルコール摂取の制限、4)コレステロールや飽和脂肪酸の摂取制限、5)運動療法(運動・身体活動量の増加)、6)禁煙とされています。

脂質異常症(高脂血症)の生活習慣のポイント

1日に食べた物を書き出してみましょう 

脂質異常症の治療において重要なことは、どんな生活習慣が今回の脂質異常症という疾患を招いたのかということを、生活習慣の観点から問題を洗い出すことです。今までの生活習慣の問題を把握することで、改善すべき点を明確にし治療に向けたモチベーションを維持することにもつながります。 把握するためにはまず書くことから始めます。まずは、平日と休日の1日の食事内容(水を省いた口に入れたものすべて)を書き出します。

主治医と相談しながら、3ヶ月ごとの目標を立てましょう

 かかりつけの主治医と相談して、当面3ヶ月間の改善目標を決めることが大切です。
ここで、目標を掲げるときに重要なことは、無理な目標はたてないこと。 例えば、ダイエットをするときに100kgの体重を50キロに1か月でしよう。これはどう考えても無理な目標ですし、明らかに健康上問題です。

 どんな目標についても同じことが言えますが、容易に達成できる目標ではなく、少し頑張れば達成できる目標にすることがモチベーションを維持するうえでも、健康を守る上でも大切なことです。
例えば
1、3食きちんと栄養バランスを整えて食べる
2、脂質の吸収を抑える食物繊維を摂る
3、1日30分の有酸素運動を行う

 確実に実行できることを目標として掲げ実行するようにしましょう。また、病院によっては栄養指導も行っているところもありますので、ぜひ活用するようにしましょう。

頑張った結果を脂質異常症の検査で確認

 治療に向けて頑張ったら、結果は必要ですね。3ヶ月後に再び病院にいき血液検査をしてもらいましょう。変化が出てきたら成功。変化がなかったり上昇している場合は、何かしらの問題がある場合がありますので、主治医と相談し目標内容と実行内容の吟味をしましょう。

女性は生活習慣の改善効果が大きい

もちろん、総コレステロール値が280mg/dLなど非常に高い場合は、最初から薬による治療が検討されることもあります。ただ、閉経前の女性は、エストロゲン(女性ホルモン)の作用でLDL(悪玉)コレステロールが高くならないように調整されるので、間食の多い方や運動不足の女性では生活改善の効果が期待できます。閉経前はまず生活改善を、エストロゲンの分泌が減少する閉経前後からは生活改善と薬の併用も選択肢の一つです。検査値しか手がかりがないため、つい効果が期待できる薬に頼ってしまう脂質異常症ですが、少し体重を減らしただけで数値が改善するケースもあります。まずは、今晩の食事から生活改善を始めてみませんか。

脂質異常症を食事で改善(基本)

高脂血症のタイプ、つまりコレステロールと中性脂肪のどちらかあるいは両方高いのかにより、また合併症の有無などにより、食事療法のポイントは若干異なってきます。ただ基本は同じですので、以下にそのポイントを示します。食事療法では、平均総コレステロール値の1割、中性脂肪では2割程度の低下が期待できます(高中性脂肪血症では、特に食事療法に大きな効果が期待できます)。一般には、総コレステロールで5%、中性脂肪で10%低下すれば、食事療法の効果ありと判断されます。1~2ヶ月食事療法を継続して、それ程効果が見られない場合は、薬物療法の適応と考えても良いでしょう。

適正なエネルギーをとりましょう

エネルギーをとりすぎると、肝臓でのコレステロールの合成が促進されます。余分なエネルギーは肝臓でトリグリセライド(中性脂肪)に合成され、血液中のトリグリセライドも高くなります。逆に消費エネルギーの方が多いと、トリグリセライド分解されエネルギー源として使われます。肥満のある場合は、標準体重(※)に近づけましょう。
※標準体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22(日本肥満学会の式)

良質なたんぱく質をとる

魚・肉・大豆製品・卵など良質なたんぱく質を含む食品は、毎食1品はとるようにしましょう。LDLコレステロール(悪玉)を減らし、HDLコレステロール(善玉)を増やすためには、脂肪の多い肉や卵を減らし、魚や大豆製品を選ぶようこころがけましょう。

脂肪の質と量に注意しましょう

脂質からのエネルギー量は全体の20?25%とし、動物性脂肪は控えるようにしましょう。
①牛乳などの乳製品や卵は指示量に合わせてとりましょう。
②肉は脂肪の少ない部位を選びましょう。
③市販食品や加工食品は、動物性脂肪を使っているものが多いので注意が必要です。

コレステロールを多く含む食品を控えましょう

 食品からとるコレステロール量は1日300mg以下にしましょう。コレステロールは卵類、レバーやモツなどの内臓類に多く含まれていますのでとりすぎに注意しましょう。魚でも内臓と魚卵はコレステロールが多いため、しらす干しのような小魚や、丸ごと食べるメザシやわかさぎ、タラコ、数の子、イクラなどの魚卵あるいは白子、塩辛などは食べる量と頻度に注意が必要です。

アルコール飲料を控えましょう

アルコールは1日25g以下が適量とされています。
(目安量)
?ビール…中瓶1本(500ml)
?日本酒…1合(180ml)
?焼酎…0.5合(90ml)
?ウィスキー…ダブル1杯(60ml)
?ワイン…グラス2杯(200ml)

食物繊維は十分にとりましょう

 食物繊維は、血管壁へのコレステロールの沈着を防ぎます。野菜、海草、きのこ類などを毎食欠かさず十分にとりましょう。また、野菜に含まれるβ?カロテン、ビタミンCはLDLコレステロールの酸化変性を防ぎます。野菜の1日の摂取量の目安は350g以上です。

甘いもののとりすぎに注意しましょう

 甘いもののとりすぎはトリグリセライド(中性脂肪)を増加させます。砂糖の多い菓子類、飲料は控え、料理に使用する砂糖も少なめにしましょう。
 また、果物にも糖分が含まれ甘いものの1つとして思い浮かびますが、ビタミンや食物せんいが豊富であるという点では優れた食品です。1日の適量を摂るように心がけましょう。
(目安量)みかんなら中2個、りんごなら中1/2個、バナナなら中1本

食塩は控えましょう

 食塩のとりすぎは、血圧を上げる要因となります。高血圧症を合併すると血管を傷つけ動脈硬化が進みます。

脂質異常症を食事で改善(タイプ別)

 食事で改善(基本)のような食事療法で検査結果が目標値に達しない場合には、「LDLコレステロールが高いタイプ」、「トリグリセライド(中性脂肪)が高いタイプ」、「どちらも高いタイプ」にあわせた第2段階の食事療法へ進みます。

LDLコレステロールが高いタイプ

①脂肪の質と量に注意しましょう

脂質からのエネルギー量は全体の20%以下としましょう。 

多価不飽和脂肪酸(P):一価不飽和脂肪酸(M):飽和脂肪酸(S)の比率は、3:4:3 が望ましいとされています。
多価不飽和脂肪酸(P)が多い食品:植物油や魚油(イワシ、さんまなど)
一価不飽和脂肪酸(M)が多い食品:オリーブ油
どちらも血液中のLDLコレステロールを下げる働きがありますが、エネルギーが高いので、決められた量の範囲でとりましょう。
 
飽和脂肪酸(S)はバターやラードなどの動物性脂肪、肉の脂身に多く含まれます。
LDLコレステロールを増やしますので、摂りすぎに注意しましょう。

②コレステロールを多く含む食品を控えましょう

 食品からとるコレステロール量はさらに制限し、1日200mg以下にしましょう。
卵は1日上限を1個とし、魚卵、小魚、レバー、うなぎ等の摂りすぎに注意しましょう。


トリグリセライド(中性脂肪)が高いタイプ

①アルコールは原則禁止です。

②炭水化物のとり方に注意しましょう

ごはん、パン、めん類などの主食は食事の基本として毎食取り入れます。いも類や果物も食物繊維やビタミンを豊富に含見ますので、毎日の食生活には欠かせない食品です。しかし、これら炭水化物を主体とした食品のとりすぎはトリグリセライドを増やしますので、適量をこころがけましょう。

例えば
?ごはんのおかわりは控えめにしましょう。
?いも類はじゃが芋1日小1個程度にしましょう。
?果物は1日80kcal程度(みかんなら中2個、りんごなら中1/2個、バナナなら中1本程度)にしましょう。
など

*また、砂糖は料理に使用する調味料のみにし、和菓子や洋菓子、清涼飲料水など甘いものは可能な限り控えましょう。

LDLコレステロール・トリグリセライド(中性脂肪)が共に高いタイプ

LDLコレステロールとトリグリセライド(中性脂肪)が共に高い場合は、1及び2のポイントすべてに気をつけるようにしましょう。

脂質異常症(高脂血症)の食事のポイントは食べてはいけないものは原則ありません。摂りすぎに注意し適量を守ることで快適な食生活を送ることができます。

脂質異常症の治療に運動療法を取り入れましょう

 脂質異常症などの脂質の以上が認められる疾患において運動はとても効果的な治療法の一つです。しかし、健康状態や持病によっては運動療法を最大限に取り入れることができないケースもありますので、その場合は主治医の指導に従いましょう。 

運動の種類:ウォーキング(速歩)、ジョギング、水泳、自転車、社交ダンスなどの有酸素運動。

運動時間・頻度:運動はできれば毎日ですが、週に3~4日でも効果は出てきます。1日30-60分間程度。運動は続けることが重要です。最初は無理をせず少しずつ実施していきましょう。あくまでも、ここにある運動量などは、目標とちらえることが大切です。

運動強度:有酸素運動とは、肩で息をするほどの運動ではなく、息がはずむ程度が最適です。息が切れるほどの感覚を覚えるときは運動強度が強すぎることを意味しますので、見直しをしましょう。

 血中脂質の改善は、すぐの効果は望めませんので、あくまでも3カ月スパンで見るようにしましょう。

有酸素運動が血中脂質レベルを改善させるプロセス

 筋のリポプロテインリパーゼ活性が増大することにより、トリアシルグリセロール(血中カイロミクロン、VLDL、LDL)の分解を促進させ、HDLを増やすことが関与していると考えられています。

HDLの役割

 「善玉コレステロール」として知られ、末梢組織や細胞から余剰なコレステロールを回収し、肝臓に運搬する役割を有しています。
 HDLコレステロールを増加させることができる運動・身体活動の最低条件として、1週間に合計120分間の運動を行うか、1週間に合計900kcalのエネルギーを消費する身体活動を行うことが望ましいとされています。

運動をする前にメディカルチェックを! 

 メディカルチェックを受け、狭心症や心筋梗塞などの心血管合併症の有無を確認し、運動療法の可否を確認した後に、個人の基礎体力、年齢、体重、健康状態などを踏まえて運動量を設定する必要があります。脂質異常症の改善には運動療法だけでなく、食塩摂取量やアルコール摂取量の制限、禁煙などとの併用療法がより効果的です。