再生不良性貧血の原因特定は、できておらず、難病指定されている病気です。

再生不良性貧血の症状、原因、治療

 再生不良性貧血とは、骨髄において血球産生能が低下しているため、赤血球白血球血小板系統のすべてが低下する汎血球減少症を指します。日本では年間に10万人あたり15人程度発生する疾患で、男女差はありませんが中高年に多い傾向があります。原因が不明な原発性再生不良性貧血が約80%で、放射線、抗ガン剤、鎮痛薬、抗生物質などによる2次性再生不良性貧血が残りを占めます。まれですが、先天性再生不良性貧血があり、ファンコニ貧血と呼ばれます。多指症などの骨格異常や染色体異常を伴うことが特徴です。

再生不良性貧血の症状

再生不良性貧血は、赤血球、白血球、血小板が減少による症状が起きます。再生不良性貧血は徐々に進行することが多く、あまり貧血の自覚症状は強くないのが一般的です。再生不良性貧血が進行すると他の貧血同様に、顔面の蒼白・息切れ・動悸・めまいなどの貧血による症状と、皮下出血斑・歯肉出血・鼻出血などの出血傾向です。好中球減少の程度が強い例では、感染を併発して発熱が認められることもあります。貧血が高度であっても進行が遅い場合には症状がなく、検診で異常を指摘されて初めて来院される患者さんもいます。また、再生不良性貧血は、好中球が減少するため、感染症を起こしやすくなるのが特徴です。とくに白血球数が500/mm3以下になると重篤な細菌感染症を起こしやすくなるため、注意が必要となります。血小板数が2~3万/mm3に減少すると、皮膚の点状出血、鼻出血などの出血傾向が起き、血小板数1万/mm3以下では、脳内出血など重篤な出血を起こす可能性があります。
*再生不良性貧血では長期にわたり輸血を受けることが多く、体内に鉄分が沈着するために種々の内臓障害が発生することがあります。肝脾腫(かんひしゅ)、不整脈などが主な症状ですが、これを輸血性ヘモジデローシスといいます。

再生不良性貧血の診断

再生不良性貧血の診断は、全ての血球が減少している汎血球減少を示すと同時に、骨髄の細胞密度が低いことを確認する為に骨髄穿刺と骨髄生検により確認する必要があります。一般に測定される血液細胞は赤血球、白血球、血小板の3つですが、骨髄のはたらきを評価する場合には、これに加えて網状赤血球という未熟な赤血球の数を調べる必要があります。骨髄を検査できる骨は、胸骨という胸の中心に位置する骨と、腸骨という骨盤の骨に限られています。全身の骨髄の状態を評価するためには、MRI検査を行う必要があります。MRIの結果、胸部や腰部の脊椎骨の骨髄密度が低ければ、骨髄低形成の診断は確実になります。

 再生不良性貧血との区別がとくに難しいのは、骨髄異形成症候群のうち、骨髄中の芽球(白血病細胞に似た幼若な細胞)の割合が5%未満の不応性貧血です。不応性貧血では細胞の形に異常(異形成)がみられますが、再生不良性貧血でも軽度の異形成がみられるため、両者の区別には高度の専門的な判断が必要です。不応性貧血や、不応性貧血か再生不良性貧血かの判断に迷う例のなかには、発作性夜間血色素尿症(PNH)で認められる特定の膜蛋白が欠失した血球(PNH型血球)が増えている例があります。このような例の病態は、骨髄異形成症候群(前白血病状態)様でなく、再生不良性貧血と同様である(免疫抑制療法によって改善しやすい)ことが知られています。

再生不良性貧血で行う血液検査

再生不良性貧血の検査

赤血球 男性・赤血球数400万/mm3以下
女性・350万/mm3以下

赤血球に関する詳しい説明があります。
白血球 白血球数4,000/mm3以下
白血球に関する詳しい説明があります。
血小板 血小板数10万/mm3以下
その他 再生不良性貧血は、汎血球減少症が起きうる他の疾患がない時に診断するいわゆる除外診断であり、白血病、骨髄異形成症候群、骨髄線維症、ガンの骨髄転移、重症敗血症、巨赤芽球性貧血などと鑑別する必要があります。骨髄穿刺(せんし)では、一般に造血細胞が減少していますが、細胞の形態に変化はなく、また異常細胞などは認めません。赤血球の産生が低下するため、末梢血の若い赤血球の割合を示す網状赤血球が減少し、鉄代謝が減少するため血清鉄増加、不飽和鉄結合能が低下します。
 

再生不良性貧血の治療

再生不良性貧血の治療方針は、患者の自覚症状に応じてヘモグロビンを7g/dl以上に維持するように白血球除去赤血球を輸血する。予防的な血小板輸血は抗HLA抗体の産生を促すため、明らかな出血傾向がなければ血小板数が1万/μl以下であっても通常輸血は行わないです。好中球数が500/μl以下で感染症を併発している場合にはG-CSFを投与をします。重症な再生不良性貧血に関しては、大規模な臨床試験は皆無である。ウサギATGは治療期間が短いという長所があるが、治療のために入院や血小板輸血を必要とすることが問題である。ATG治療を希望しない患者に対しては以下の治療方針が勧められる。従来行われていた副腎皮質ステロイド療法は毒性に比して有効率が低く、またそれに代わる治療が存在するため用いるべきではない。

血球減少が進行せず、血小板数が5万/μl以上で安定している患者

再生不良性貧血で重症な患者さんも日常生活に支障を来すことがなく、また血球減少が自然に回復する例があることから、従来は無治療経過観察が勧められてきた。また、従来の再生不良性貧血の診断基準では、MDSとも診断できないICUSについても、注意深く経過を観察することが勧められております。しかし、実際には何らかの明らかな誘因が除かれない限り、血球減少が自然に回復することは稀であります。一方、長期間の血球減少期を経て輸血依存性となった患者が免疫抑制療法によって改善する可能性は非常に低いです。一般に自己免疫疾患では発病から治療までの期間が短ければ短いほど寛解率が高いことが知られています。例えば慢性関節リウマチでは、発症後24週間以内に免疫調整薬で寛解導入療法を行うことが、関節破壊を防ぐ上で重要とされている。したがって、血球進行のない例であっても、血小板減少が優位であり、骨髄巨核球が減少しているタイプの再生不良性貧血に対しては、状況が許せば3~4ヶ月シクロスポリン(CsA、この重症度では保険適応外)を投与し、反応の有無を見ることが勧められます。ただし、再生不良性貧血の重症患者に対するシクロスポリンの有用性については、今後臨床試験により明らかにする必要があります

血球減少が進行するか、汎血球減少が安定していても血小板数が5万/μl以下に低下している患者

CsA(この重症度では保険適応外)4~5 mg/kgまたは酢酸メテノロン(プリモボラン)10~20 mg/日を投与する。患者があえて治療を希望しない場合には、stage 3となるまで無治療で経過をみても良いが、免疫抑制療法の場合、治療が遅れることによって治療効果が下がる可能性があることを説明する必要がある。CsAは、この重症度の患者では単剤で約50%に効果を発揮する。効果があるかないかは網赤血球の上昇の有無によって2?3ヶ月以内に判断でき、また4 mg/kg以下の投与量であれば不可逆的な腎障害はみられないので、状況が許せばプリモボランより先に試みるべきである。末梢血中にPNHタイプ血球がわずかにでも増加している場合や、血小板減少先行または優位型の汎血球減少の場合にはさらに高い奏効率が期待できる。

投与量は、血中トラフ濃度が150~250 ng/mlとなるように調整する。個人差はあるが成人患者では通常4~5 mg/kgでこの濃度に到達する。ただし、トラフ濃度がこの範囲に達していても、リンパ球内のカルシニューリン抑制に必要なピークレベルに達していない可能性があるので、できる限り内服2時間後の血中濃度(C2)を測定し、これが600ng/mlに達していない場合はCsA(ネオーラル)を食後内服から食前内服に変更する。投与直後は血清クレアチニンを1~2週間に1回測定し、投与前値の150%以上に上昇した場合には投与量を半量または4分の3量に減量する。その他、高血圧、間接ビリルビン・LDH・尿酸の上昇などにも注意を要する。網赤血球、血小板数の上昇などの反応の徴候は、通常CsA開始後2~3ヶ月以内に現れる。これらの反応が見られなかった場合は漫然と投薬を続けることは避け、治療方針の変更を考慮すべきである。

蛋白同化ステロイドに関するこれまでの臨床試験成績はほとんどが1~5 mg/kgという大量投与に関するものである。この量を投与された患者では約30%に効果がみられるとされている。保険で認められている酢酸メテノロンの最大投与量(20 mg/日)の治療効果をみた報告はないが、実際には5~20 mg/日の投与量であっても有効例では十分な効果が得られる。また、この投与量では、肝障害を始めとする深刻な副作用を認めることは稀である。ただし、女性患者では10 mg/日以上の投与を長期間続けると不可逆的な男性化が起こりうるため、投与前に副作用に関して十分に説明する必要がある。また、アンドロゲン依存性肝腺腫を誘発することがあるので、定期的に腹部エコーまたは腹部CTを行う必要がある。

再生不良性貧血は、重症度分類をもとに治療法を決定します。

再生不良性貧血の重症度分類(単位:/μ?)

重症度\検査項目 付随事項 顆粒球 血小板 網赤血球
重症 骨髄が低形成で少なくとも
右記の2項目を満たす
500 20000 20000
中等度 少なくとも
右記の2項目を満たす
1000 50000 60000
軽症 それ以外のもの

*貧血がヘモグロビン7g/dlより低下する場合は、輸血を行います。

再生不良性貧血の治療例

再生不良性貧血の治療例
重症 サンディミュン
体重1kgあたり1日5mg内服
年齢(45歳以下)、HLA一致の合致したドナーなどの条件がそろえば、骨髄移植が根治的な治療です。重症の再生不良性貧血でも骨髄移植により約70%の症例が長期生存できることが報告されています。骨髄移植が行えない症例は、抗リンパ球グロブリンや免疫抑制剤サイクロスポリンを用います。
*腎機能障害がでることがあるので、クレアチニンなど腎機能をモニターすることが必要です。
中等度 リンフォグロブリン
体重1kgあたり1日15mg
再生不良性貧血が中程度の症例ではアンドロゲンと抗リンパ球グロブリン製剤を用います。胸腺細胞を抗原として作成した抗リンパ球グロブリンは再生不良性貧血が中等度、または重症例で約4~5割の有効率をもつことが示されています。また免疫抑制剤のサイクロスポリンは重症例のみ保険適用ですが、抗リンパ球グロブリン療法が無効な中等度の症例にも使用します。
軽症 アナドロール
体重1kgあたり1日0.5mg
 経過観察のみでよいことありますが、基本的にはアンドロゲン療法を行います。効果がみられるまでに数カ月かかることが多いようです。
*アンドロゲン(男性ホルモン、またタンパク同化ステロイド)

再生不良性貧血の特殊治療例

顆粒球減少が著しく感染症が疑われる場合には、顆粒球の産生を促進する顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を使用します。ノイトロジン  体重1kgあたり1日5μg 皮下注射、連日  顆粒球が1,000/μlに達するまでこの投与を続けるのが原則です。

再生不良性貧血の治療期間と予後

再生不良性貧血が軽症例では輸血のみで長期生存する例もありますが、重症例では出血傾向、肺炎などの重篤な感染症により急激な経過をとることもあります。

再生不良性貧血によい漢方薬

初期から中期にかけて使用します
十全大補湯
(じゅうぜんたいほとう)
体力が衰え、だるく疲れやすく、顔色(血色)も悪い場合に。重い貧血に用いる。
四君子湯
(しくんしとう)
比較的体力が弱く、疲れやすく、食欲不振があり、食後に眠くなるタイプに。
六君子湯
(りっくんしとう)
胃アトニータイプ(胃壁の筋肉の緊張が低下している状態)で、食欲がなく、顔色も悪い場合に。
加味帰脾湯
(かみきひとう)
体力がなく、倦怠感が強くて眠れず、気分が沈みがちで食欲がないときの貧血に。
当帰芍薬散
(とうきしゃくやくさん) 
女性の貧血で、ふだんから月経量が多い人や妊娠時に使う。
人参養栄湯
(にんじんようえいとう)
全身の倦怠感、貧血、食欲不振、精神不安、寝汗、便秘に効果を現します。

再生不良性貧血によいサプリメント

良いとされるものはありますが、効き目が出ているといえるものは現在のところありません。