1回の生理(月経)によって、平均40mlの血液が失われます。

生理(月経)による貧血の症状と予防

 女性の貧血の多くは、鉄欠乏性貧血によるものです。この鉄欠乏性貧血は、病名が示している通り、鉄分が欠乏する事で起きる貧血です。
鉄分は、私たちの血液の中にある赤血球を構成する、最も重要な成分です。赤血球は、呼吸により得た酸素を抹消細胞まで輸送する働きがありますが、体内の鉄分が欠乏をすると赤血球の酸素輸送能力も低下をし、必要な酸素が送り届けらず酸欠の状態となります。その為、貧血による症状は、酸素を多く必要とする組織に現れやすいのです。

 この様に体内の鉄分が不足して発生する鉄欠乏性貧血ですが、日本では女性に多く発生しています。これは、女性の生理(月経)と食生活が大きく関係しています。初潮をむかえた女性は、毎月生理(月経)があります。生理(月経)の時に失血をし鉄分も同時に失います。
 また、鉄分は体内合成する事ができないため、食事から摂取することが必須となります。鉄分を多く含んだ食品を摂取すればよいと思われますが、鉄分を多く含む食品には、レバー、カツオなど生臭い食品が多く、若い女性は敬遠しがちな食品であるため摂取不足となります。
 そして思春期の女性は、痩せへの願望も強く無理なダイエットや偏食があったりします。その為、栄養バランスが悪く体内で必要とする鉄などの栄養素が十分に摂取できてない事も多いです。その為に体内で必要な鉄分の需要と供給バランスが崩れる事によって貧血は起きるのです。

生理(月経)はなぜおきるのか?

 生理(月経)とは、子宮の内側を覆っている内膜が一定の周期ではがれ落ち血液とともに排出されることをいいます。
 生理(月経)の起こるしくみには、直接的には卵巣から分泌される女性ホルモンが関わっています。女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)と、プロゲステロン(黄体ホルモン)により、受精卵が子宮内膜に着床した時には、栄養が受けられるように準備されます。しかし、受精卵が着床しなかった場合には、肥厚した子宮内膜は不要になり、新たな子宮内膜を作る為に剥がれおちます。これが生理(月経)です。
 生理(月経)は、卵巣の働きにあわせ約28日周期で生理(月経)fが起きる仕組みとなっています。卵巣は、脳の視床下部と、下垂体前葉から分泌されるホルモンの命令、刺激が不可欠なのです。この『フィードバック機構』とよばれる生理(月経)の起こるしくみを、これから説明いたしましょう。

生理(月経)の起こるしくみ

  1. 思春期近くになると、脳の視床下部からRH(放出ホルモン)が分泌されます。
  2. この刺激で今度は脳の下垂体前葉から、FSH(卵胞刺激ホルモン)が分泌されます。このFSHが血液に入り、卵巣に到達します。
  3. そこでFSHは卵胞を刺激して「成熟」させます。すると卵胞からエストロゲンが分泌され血液に入ります。
    *エストロゲンが分泌されると、皮下脂肪が発達して、生殖器や乳房も発達し、女性らしい体つきに
  4. 血液中のエストロゲンが増えてくると、その『増えた・お知らせ信号』が視床下部と下垂体前葉に
  5. 知らせを受けた下垂体前葉はFSHの分泌を減らします。
  6. 今度は視床下部からLHRH(黄体形成ホルモン放出ホルモン)が分泌されます。この刺激で下垂体前葉からLH(黄体形成ホルモン)が分泌されます。
  7. このLHが卵胞を刺激して「排卵」をうながします。こうして卵胞から卵子が放出されて受精可能となります。排卵後の卵胞は「黄体」とよばれます。
  8. この黄体からエストロゲンとプロゲステロンが血液中に分泌されます。妊娠に備えるのです。受精しなかった場合、黄体は退化します。そのためこれらの女性ホルモンの分泌がとまります。 

そして、生理(月経)がおこります。

生理(月経)で失う鉄分による貧血に注意

 生理(月経)は、毎月起きる継続的な出血であり失った鉄分を十分補う事ができなければ貧血になりやすくなります。初潮から閉経までの間、女性の約一割が鉄欠乏性貧血がなると言われております。
 1回の生理(月経)によって、平均40mlの血液が失われます。当然、生理(月経)のある女性は、出血による鉄損失の分も補う必要がありますが、男性よりも鉄が多く必要であるにもかかわらず、ダイエットのための食事制限などをするため、貧血の女性が多くなっています。
 
 また、過多月経(月経血が80ml以上)の人は、さらに貧血になりやすいため、注意が必要になります。

生理(月経)による貧血時には、消化吸収の良い鉄分補給が重要

食事から鉄分をとる場合に注意しなくてはならないのは、鉄分は「多く含まれる食品」を食べるだけではなく、吸収率が大切だということです。
ほうれん草などの緑黄色野菜・ひじきなどの海草に含まれる非ヘム鉄は動物性食品(レバーなど)に含まれるヘム鉄に比べて吸収率が悪いのですが、ビタミンCを一緒に摂ると吸収率がアップします。
 鉄の鍋やフライパンで調理するのも効果的です。

生理(月経)による貧血対策で多めに鉄分を補給を

 女性の場合、普段は1日あたり10mg、経血で鉄分が失われる生理(月経)の前後にはさらに3~5mgくらいの鉄分が必要とされています。
 貧血の症状が強く出ている場合は病院で鉄剤を処方してもらったり、生理(月経)の経血量が明らかに過多(正常な経血量は多い日でもナプキンを2時間おきに取り替える程度です)である場合は子宮筋腫などの病気が原因となっていないかを婦人科で調べてもらいましょう。

立ちくらみなどの貧血の予防対策

 貧血、というと、長時間立っているときの立ちくらみ=起立性貧血がすぐにイメージされますが、起立性貧血と貧血とは違います。
 起立性貧血は、自律神経の乱れによって、血圧が低下し、一時的に脳に血液が十分に行き渡らなくなる状態です。生理(月経)のときには、ホルモンの急激な変化で自律神経の働きが乱れて、起立性貧血を起こしやすくなることもあります。
 立ちくらみしやすい人は、長時間のたち仕事などの場合、両足を交差して腿同士を前後から押し付けるようにすると、血液が足もとのほうに下がりすぎるのを防ぐことができます。

生理(月経)における貧血を予防は、食事が重要

 生理(月経)による鉄分不足を解消する為には、食事で鉄分を摂取する事が重要になります。これは私たちの体内では、鉄分を合成する事はできない為です。
 また、鉄分を含む食品を摂取する際には注意点があります。まず、鉄分を含む食品には、動物性食品と植物性食品がありますが、同じ含有量の食品でもこの動物性食品か植物性食品かで吸収率は大きく異なります。動物性食品に含まれる鉄分はタンパク質と結合しており非常に吸収がよく動物性食品を摂取する事をおすすめします。
 しかし、動物性食品はレバーなどクセの強い食品が多いです。その為、臭いや風味が苦手な方は調理加工する事で食べやすくする事が重要になります。また、古くから鉄分を摂取する際には、お茶を一緒に飲んではいけないと言われています。これは、お茶と鉄分は結合しやすい性質があり、一緒に摂取する事により消化吸収しづらい形に変形してしまう為です。
 生理(月経)による貧血にならない為には、生理(月経)の1~2週間前から鉄分の多い食品を食べる事をおすすめします。鉄分は、必要以上に摂取した場合には肝臓に蓄積されます。そして、生理(月経)などにより血液中の鉄分が減少した時には肝臓に蓄積した鉄分が動員され貧血を予防する効果があります。

 しかし、食事だけでは貧血が改善されない場合には、鉄分を含むサプリメントを服用したり医療機関を訪れ専門家の治療を受けるようにしましょう。

貧血に関係がある栄養素について

鉄の栄養と体内での働き

動物性食品(レバーなど)のヘム鉄なので吸収がいい。ビタミンCやたんぱく質を一緒に摂るようにしましょう。生理(月経)の貧血に良い食材:レバー、赤身肉、あさり、かつお
 

銅の栄養と体内での働き

 ヘモグロビンのコアとなる成分ですそのため鉄と同じくらい不可欠といえます。鉄分豊富なレバーにも含まれています。生理(月経)の貧血に良い食材:レバー、魚介類、豆類、ココア
 

葉酸の栄養と体内での働き

 不足すると悪性貧血の原因となります。生理(月経)の貧血に良い食材:菜の花、ほうれん草、えだまめ、モロヘイヤ、ブロッコリー
 

ビタミンB6の栄養と体内での働き

 たんぱく質の再合成や分解に欠かせない。欠乏すると貧血や肌荒れのもとになります。生理(月経)の貧血に良い食材:にんにく、バナナ、ピスタチオ、玄米、そば粉、ごま、かつお、まぐろ、レバー
 

ビタミンB12の栄養と体内での働き

 血をつくり、神経や脳の機能を正常に保ちます。不足すると葉酸同様に悪性貧血の原因となります。動物性食品のみに含まれます。生理(月経)の貧血に良い食材:レバー、牡蠣、さんま、いわし、あさり、しじみ
 

ビタミンCの栄養と体内での働き

 新鮮な旬の野菜やフルーツからとることができます。調理時に失われることが多いビタミンです。ジャガイモは例外です。生理(月経)の貧血に良い食材:ピーマン、ブロッコリー、じゃがいも、にがうり、キウイ、いちご、アセロラ
 

たんぱく質の栄養と体内での働き

 赤血球はたんぱく質と鉄が結びつきヘモグロビンが合成されるため欠かせません。生理(月経)の貧血に良い食材:肉類、魚介類、卵類、大豆製品、乳製品