脂質異常症(高脂血症)の原因として多いのが、脂質異常症になりやすい体質と生活習慣によるものです。

脂質異常症(高脂血症)になりやすい人

脂質異常症(高脂血症)の原因として多いのが、脂質異常症になりやすい体質と生活習慣によるものです。家族性(遺伝性、生活習慣の類似性)があるとなりやすいことは確かですが、やはりこのリスクファクターに生活習慣が加わることでリスクが確定的となり脂質異常症を発症することとなります。

 生活習慣の中でも、いちばん重要な要素が「食生活」です。脂っこいものや甘いものを多くとると、血液の中のコレステロールや中性脂肪が増加してしまいます。また、食生活の他に、運動不足、喫煙、飲酒、ストレス、などの要素があります。運動不足による肥満やタバコの吸いすぎ、お酒の飲み過ぎ、ストレスをため込む、などにより、脂質異常症になりやすくなります。 また、体質的なことでは、コレステロールが上がりやすい人と上がりにくい人がいます。コレステロールが上がりにくい人が、高コレステロールの食品を食べてもあまり変化しませんが、上がりやすい人では、少ない量でも上がってしまいます。ただし、体質的なリスクを持っている方でも、生活習慣を改善することで脂質異常症を予防することができます。

脂質異常症(高脂血症)になりやすい人リスト

 以下のリストに当てはまる方は、脂質異常症になりやすい方です。これらに当てはまる方は、ならないよう注意しましょう。

1、家族に脂質異常症や動脈硬化症の人がいる。
2、肥満傾向である。
3、高血圧または境界型血圧である。
4、日常的にあまり歩かない。
5、お酒をよく飲む。
6、糖尿病である。あるいは血糖値が高めだといわれた。
7、痛風がある。
8、肉や脂っこい食べ物が好き。
9、女性で、閉経している。
10、甘いものや乳脂肪製品(生クリームや洋菓子)、果物が好き。

2次性脂質異常症(高脂血症)について

2次性脂質異常症とは、ある疾患の影響により脂質異常症を発症するものをいいます。以下のような疾患をお持ちの方は注意が必要です。

甲状腺機能低下症による脂質異常症(高脂血症)

 甲状腺の病気で、甲状腺ホルモンが不足して起こります。首の全面がはれたり、だるさなどが見られます。ちなみに甲状腺とは、のどぼとけの下に、ちょうど蝶が羽を広げて気管を抱くような形で存在しています。

甲状腺の病気になっても高脂血症が、起こることがあります。 甲状腺とは、首の前部、喉仏の下にある器官で、甲状腺ホルモンを分泌しているところです。甲状腺ホルモンは、栄養素を円滑にエネルギーに、替える働きをしています。 甲状腺機能低下症というのは、甲状腺ホルモンの分泌が減るという病気です。

甲状腺ホルモン低下症の病気の症状は、血圧が下がる、体がむくむ、体重が増えて動作が緩慢になる、物忘れがひどくなる、心臓の働きが低下するなどの症状が現れます。それと同時に、血液中の総コレレストロール値が高くなります。 原因は、甲状腺ホルモンの減少のために、肝臓や組織のLDLの受容体が少なくなり、 コレステロールが、組織に取り込まれなくなるなどのせいで、血液中にコレステロールがとどまってしまうからです。この病気は、中年以降の女性に多い病気です。

甲状腺機能低下症は、コレステロール値が高くなりますが、症状がはっきりしないため見逃されていることが多いのです。  逆に甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンの分泌が多すぎて、総コレステロール値が低下します。この病気は、手足の震えや動機、体温上昇、発汗、眼球突出、体重減少などの症状が現れます。


糖尿病による脂質異常症(高脂血症)

血液の中のブドウ糖が慢性的に高い状態になってしまう病気です。高脂血症と糖尿病には深い関係があり、糖尿病患者の約20~50%の方が高脂血症を発症しています。

糖尿病とは、体や脳の活動エネルギー源として使われるブドウ糖が血中に増えすぎ、尿と一緖に糖が出る病気です。通常、ブドウ糖はインスリンというホルモンによってエネルギーへ変換されますが、インスリンのはたらきが不足してブドウ糖が使われなくなると、高血糖を招いて糖尿病を引き起こします。40歳以上になると、5人に1人が糖尿病にかかっていると言われており、現代人の生活習慣病の1つとして数えられています。

糖尿病によってブドウ糖がエネルギーとして使われなくなると、血中に糖分があふれ、肝臓で中性脂肪とコレステロールの原料にされてしまいます。また、ブドウ糖がエネルギーに変換されなくなると、筋肉などの細胞が中性脂肪を分解してエネルギーとして利用しようとします。ところが、分解されてできた遊離脂肪酸は筋肉では使い切ることができず、肝臓に戻されて、やはり中性脂肪とコレステロールの原料となってしまうのです。こうして大量の中性脂肪とコレステロールが作られることにより、高脂血症が発症しやすくなります。

高脂血症にかかっている上に糖尿病を併発すると、動脈硬化が進行しやすくなります。糖尿病になると血管内が傷つきやすくなり、血管内に血液の固まりができやすくなる上、さらにコレステロールが高くなると、コレステロールの結晶がたまって、より血管を傷つけることになります。傷ついた血管部分は血液が固まってふさいでくれますが、血液の流れが阻害されるようになり、動脈硬化を引き起こしやすくなります。

高脂血症と糖尿病は単独でも動脈硬化を引きおこす原因となりますが、合併するとさらに動脈硬化を悪化させ、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などの命に関わる病気を引き起こします。


膠原病による脂質異常症(高脂血症)

 膠原病は、外から侵入してくる病原菌などを排除する役割の免疫機構が誤って自分自身を攻撃してしまう病気です。 膠原病に含まれる主なものには、対称的な関節破壊により10年後には約半数が寝たきりになってしまう関節リウマチ(RA)、頬の周りに蝶が羽を広げたような紅斑に加え、発熱、全身倦怠感そして多彩な臓器が障害される全身性エリテマトーデス(SLE)、手先が冷え色が変わり皮膚も指でつまめなくなるほど硬くなり、肺、食道そして血管に線維化がおこる強皮症、「太ももが持ち上げにくくて階段が昇れない」、「手が疲れて髪がとかせない」など筋肉が冒される多発性筋炎、多発性筋炎の症状に加え目の周りに紫色の皮疹と手などに盛り上がりのある皮疹がでる皮膚筋炎、目と口が乾燥するシェーグレン症候群、手先が冷え色が白く変わる症状に加え手指がソーセージのように腫れ全身性エリテマトーデス、強皮症、そして多発性筋炎の症状がそれぞれ合併する混合性結合組織病(MCTD)、関節リウマチに血管の炎症を伴い多彩な症状を呈する悪性関節リウマチ、障害される血管の大きさにより多彩な症状を呈する血管炎症候群、平熱と高熱が繰り返され高熱になる直前から出現し解熱すると消えてしまうサーモンピンク色の皮疹を特徴とする成人発症スティル病、高齢者に発病する比較的短期間のうちに肩や腰の周囲に痛みが出現し、発熱、体重減少などを伴うリウマチ性多発筋痛症があります。


原発性胆汁性肝硬変症による脂質異常症(高脂血症)

胆汁は食べ物に含まれている脂肪を消化する大切な働きを有しています。この胆汁は肝臓で肝細胞によって作られて、肝臓内の細い管(肝内胆管)を経て、だんだんと大きな胆管に集合し、一旦胆嚢内に貯留された後に食物として摂取した脂肪分が刺激となり、十二指腸から腸内へ排出されます。原発性胆汁性肝硬変(げんぱつせいたんじゅうせいかんこうへん)になると、肝臓の中の小さな胆管が炎症により破壊されます。このため、胆汁が肝臓内に停滞するために胆汁中の成分であるビリルビンが血管内に逆流し、全身の組織に黄色いビリルビンが沈着し黄疸が生じます。肝臓では、炎症と停滞した胆汁により次第に肝細胞が破壊されて線維に置換され、徐々に肝硬変へと進行します。一部の患者さんでは、徐々に肝臓の働きが低下して、黄疸、腹水貯留、意識障害(肝性脳症)を生じて肝不全という状態まで進行します。

原発性胆汁性肝硬変は英語ではPrimary Biliary Cirrhosisといい、頭文字をとってPBC(ピービーシー)と呼ばれています。症候性PBCと無症候性PBCに分頬され、皮膚のかゆみ、黄疸、食道胃静脈瘤、腹水、肝性脳症など肝障害に基づく自覚症状を有する場合は症候性PBCと呼び、これらの症状を欠く場合は無症候性PBCと呼びます。PBCは病名に肝硬変という名称が含まれていますが、多くの患者さんは肝硬変の状態になく、早期の進行していない時期にみつかります。しかし、病名としては 原発性胆汁性肝硬変と呼ばれます。

現在PBCの診断を受けておられる多くの方は自覚症状はなく、無症候性PBCです。一部(約2割)の方にまず全身の皮膚に痒みが現れ、数年後に黄疸が出現するようになります。さらに病気が進行し、黄疸が続く結果、胆汁性肝硬変という状態になると、他の原因(肝炎ウイルスやアルコール)による肝硬変と同様に、からだのむくみ(浮腫)、おなかの張り(腹水)やアンモニアが体内に貯まって生じる肝性脳症が生じるようになります。またこの病気は、食道の血管が拡張する食道胃静脈瘤が他の原因による肝障害よりも生じやすく、この静脈瘤の破裂による吐血や下血ではじめてこの病気であることが分かることもあります。また、高齢の患者さんが多くなったこともあり、肝がんの併発がみられることもあります。

胆汁がうっ滞し腸管に胆汁が流れづらくなるために、脂溶性のビタミンであるビタミンDが吸収されにくくなり、特に閉経期の女性では骨粗鬆症が進行しやすくなります。骨粗鬆症がひどくなると、脊椎やあちこちの骨がもろくなり、骨折を来すようになります。また、高脂血症を生じやすく、目の周りに脂肪が沈着する眼瞼黄色種ができることもあります。また、PBCには他の自己免疫疾患が合併することが知られています。日本ではこの病気の約15%の方に口腔乾燥症・乾燥性角結膜炎を特徴とするシェ-グレン症候群、約5%に関節リウマチ、慢性甲状腺炎が合併するとされており、これら合併した他の自己免疫疾患の症状が前面に出る場合もあります。


クッシング症候群による脂質異常症(高脂血症)

クッシング症候群とは、副腎皮質ホルモンのひとつで、血糖上昇作用、タンパク質の合成・分解促進作用、あるいは抗炎症・免疫抑制作用などのはたらきがあるコルチゾールの分泌が慢性的に過剰になる病気です。 過剰になる原因としては、副腎に腫瘍の一種である腺腫ができたり、脳下垂体の腺腫あるいは悪性腫瘍による副腎皮質刺激ホルモンの過剰産生により、副腎皮質刺激ホルモンが過剰分泌されるものがあります。

クッシング症候群の症状 としては、ムーンフェイス(満月様顔貌)といって、顔に脂肪が付いてまん丸になります。身体も肥満になっていきますが、手足は細いままで、胸や腹が太ります(中心性肥満)。筋肉が萎縮して筋力が低下し、骨ももろくなるため、ちょっとしたことで骨折しやすくなります。また、皮下出血が起こりやすくなり、性欲がなくなります。高血圧や糖尿病、骨粗鬆症を合併することもあります。

クッシング症候群は、重症になりやすいので、治療は早ければ早いほどよい病気です。一般的には、鼻から内視鏡を挿入し、鼻の奥の骨を除去して腫瘍を摘出する手術を行ないます。腫瘍摘出後は、下垂体機能が一時的に低下し、コルチゾールが不足状態になるので、糖質コルチコイドなどで補います。副腎の腫瘍が原因の場合も、腫瘍の摘出手術を行ない、その後一時的に低下する副腎機能を補うために糖質コルチコイドを服用します。そのほか、放射線治療や副腎皮質ホルモンや副腎皮質刺激ホルモンの抑制剤を使った治療を行なうこともあります。


ネフローゼ症候群による脂質異常症(高脂血症)

ネフローゼ症候群は、高度のたんぱく尿と血液中のたんぱく質濃度の低下(低たんぱく血症)がおこる腎臓の病気で、さまざまな程度のむくみや血液中の脂質の増加(高脂血症)がみられます。 原因は、微小変化型ネフローゼ症候群、巣状糸球体硬化症(「巣状糸球体硬化症」)、膜性腎症(「膜性腎症」)、膜性増殖性糸球体腎炎(「膜性増殖性糸球体腎炎」)など、一次性(原発性)の糸球体の病変が代表的なものですが、糖尿病性腎症(「糖尿病性腎症」)や全身性エリテマトーデスにともなうループス腎炎など、二次性(続発性(ぞくはつせい))の糸球体の病変も原因になります。

ネフローゼ症候群は、原発性の糸球体そのものの病変が原因である一次性ネフローゼ症候群と、なにか別の病気があって糸球体の病変がひきおこされる続発性の二次性ネフローゼ症候群に分けられます。 子どもでも、おとなでも、一次性ネフローゼ症候群が多く、一次性の割合は、子どもで90%以上、おとなでは70~80%といわれています。 発病した年齢によって、一次性ネフローゼ症候群のタイプが異なり、子どもでは微小変化型ネフローゼが圧倒的多数を占めていますが、年齢があがるとともに膜性腎症の割合が増加し、中高年層では半数以上を占めます。二次性ネフローゼ症候群のタイプも年齢によって異なり、子どもでは紫斑病性腎炎(しはんびょうせいじんえん)、おとなでは糖尿病性腎症やループス腎炎が多くなります。

大部分の患者さんに、血液中のコレステロールが増える高コレステロール血症がみられます。血液中の中性脂肪(ちゅうせいしぼう)も増える傾向があります。 ネフローゼ症候群に高脂血症がおこる理由は、血液中のアルブミンの濃度が下がると、肝臓がそれを補うためにアルブミンの合成を活発に行ない、それにともなって肝臓が、低比重リポたんぱく(LDL)と超低比重リポたんぱく(VLDL)の合成も活発化するからです(リポたんぱくは、血液で脂質を運ぶときの姿で、たんぱく質で「包んで」ある脂肪と考えてよい)。 また、動脈硬化を抑えるはたらきがある高比重リポたんぱく(HDL)が尿にもれ出るため、血液中のHDLの濃度が減少します。